こうの史代『さんさん録 (1)』

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)

さんさん録 (1) (ACTION COMICS)

 妻が死んでしまい、息子の家族と共に生活することになった参平。定年も過ぎ職もなく、やることのない参平は、ある日一冊の分厚いノートを発見する。それは妻が自分の生活の全てを書き記した『奥田家の記録』。これを読んで一念発起した参平は主夫になることを決めたのだが……

 おそらく世間的には『夕凪の街 桜の国』だけが一人歩きしている状況だと思うし、映画化によってその傾向はさらに加速されるに違いないから、ここで僕は声を大にして言いたい。こうの史代はコメディの人です!(声のかわりに文字を大きくしてみました)


 とにかく登場人物たちが皆生き生きとしている様がダイレクトに伝わってくるのが良いです。誰も彼も人生を自分なりに楽しく過ごしています。主人公の参平だって60過ぎとは全然思えません。
 職を終えてやることがなくなり、だらだらとただ生きているだけの老人はおそらく結構存在するのだろうし、そういう人たちに向けて「まだまだ人生は楽しめるよ」というメッセージが込められている、というようにも読めますが、実はそんな浅いところにはとどまっていなくて、込められたものはもっと普遍的です。充実した人生を送れていないのは何も老人だけに限らず、どんな年齢層の人でもそうなってしまう可能性は十分にあります。だらだらと生きるか、毎日新鮮な発見をして生きるか。ちょっとした心がけで人生はいくらでもおもしろくなる。


 まあこんなことを含めつつも(と勝手に僕が思っているだけですが)、一級品のコメディとして楽しく読めます。笑わせて笑わせて、たまにはハッとさせる。気軽に読めて心がどこかホッとする。そんな作品です。『夕凪の街 桜の国』も良いけれど、やっぱりこうの史代はコメディですよ。