志村貴子『青い花』
万条目ふみと奥平あきら。幼馴染の女子高生二人が十年ぶりに再会する所から話は始まる。二つの女子高における多種多様の人間模様、そして恋愛模様を志村貴子独特の筆致で描く。
- 作者: 志村貴子
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2005/12/15
- メディア: コミック
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不親切な漫画である。
現実世界における親しい人間同士の会話は、第三者にとっては意味不明であることが多い。会話する二人はお互いに相手についての情報を大量に持っているわけで、それを踏まえて会話している。ゆえに言葉数は少なくなる。初対面の人物には理解できないような文面で通じ合うことが可能になる。「ツー」「カー」の世界だ。
しかし物語においてそれをそのまま描いてしまっては第三者である読者はまったく理解することが出来ない。そのため、物語世界における会話は読者の目を意識したものにならざるを得ない。それが過剰になるといわゆる説明口調になってしまうわけだ。そこまで行かずとも、物語上の会話には読者に対する多少の「説明」が紛れ込んでいる。
志村貴子は本作において、その「説明」を極力排する。
もちろん普通の作家がそんなことをしてしまったらむちゃくちゃになって終わりである。しかし本作は、唐突かつ絶妙なタイミングの、場面転換やモノローグ挿入などによって、理解できる/できないのギリギリの境界線上に踏みとどまることに成功しているように思える。だからこそ本作は限りなくリアルで刺激的なのである。
これほどの仕事を成してしまう志村貴子の驚異的なセンスに感服した。素晴らしい読書体験であった。
それはそれとして、百合には何かしらの魔力が潜んでいると思いませんか?(台無しだ)