飛鳥部勝則『誰のための綾織』
- 作者: 飛鳥部勝則
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2005/05
- メディア: 単行本
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (53件) を見る
新潟大震災の夜、私たちは拉致された。小さな島に閉じ込められ、誘拐者たちは怒りをぶちまける。これは復讐なのだ、と。どうすれば生きて本土に帰れるのか。考えるうちに仲間のひとりが殺される。私たちの誰にも気づかれることなく殺せるはずはない状況。犯人は、私たちの中に?
「蛭女」と題された作中作。全てはこの中に――
流行に乗ったわけではなく。
いや間接的には例の事件と関係あるのかもしれないけれど、少なくとも直接的には関係ないです。だからどうしたというわけでもないですが。
「これは、反則、なのか?」という刺激的な帯の文句や、「推理小説に禁じてなどあるのだろうか。/おそらく、ありはしない。」という出だしからおのずと抱く期待は、残念ながら満たされませんでした。作中作内のトリックは正直途中で気づいてしまったし、それが新鮮なものだとも思えません。では作中作外のほうはというと、こちらも今ひとつ。そもそも作中作を用いる以上、その外に何かがあるのはミステリー的には必然なので(すれた読み方ではありますが)、どうしても心構えが生じてしまうわけでして、その上で驚かせるのはかなり難しいと思います。本作の仕掛けは、個人的には衝撃的というにはまだ足りないレベルのものでした。場外乱闘ならば浦賀和宏『浦賀和宏殺人事件』のほうがよほど上手くやっているのでは。外部の理論により犯人が導き出される構造という点では麻耶雄嵩の短編『ノスタルジア』(『メルカトルと美袋のための殺人』収録)と繋がるものがありますが、やはりあちらのほうが上手い。まあ、あんまり帯で煽っていたために期待値が高くなりすぎた、というのもあるのでしょうが。
では全然ダメかというと決してそうではなく、事前の予想とは違う部分の期待が満たされました。幻想ホラーとしてのおもしろさです。とにかく作中作が異形。どこが狂っているのか具体的には指摘しにくいのに、確かにどこかが狂っている感覚。誘拐された立場のはずの主人公グループが誘拐犯に向かってやたら強気に議論を繰り広げていたりするところに片鱗が見えます。文章も微妙にちぐはぐな印象を受け、読んでいて不安になります。ホラーな雰囲気は後半になるにつれて加速し、戦慄すら覚えるほど。そういった部分では堪能できました。
というわけで、これから読む人は反則がどうだとかあまり考えずに読むといいんじゃないかなと思います。