安福良直「世界最大の虫食い算」(文春新書)

世界最大の虫食い算 (文春新書)

世界最大の虫食い算 (文春新書)

1÷9999999995という割り算に神様が宿っていた。

 ニコリ(ペンシルパズル専門誌)の現編集長が京大生時代に手作業のみで作り上げた、二万桁を超える完全虫食い算(数字が明かされていなく、すべて□のみの虫食い算)についての物語。
「はあ? 二万桁? すげえ!」と思った人は今すぐ書店に走ろう。いまいち実感のわかない人は、http://www.bunshun.co.jp/book_db/6/60/66/9784166606696.shtmlで帯写真見ればわかるかも。ちょっと小さいか……具体的な大きさは、横100m、縦180mらしい。
「まあすごいけど、虫食い算に興味なかったら面白くないでしょ?」と思う人は結構いると思うのだけれど、いやそんなことは全くない。まず、数学が好きな人なら間違いなく楽しめる。読めばわかるが、この本は虫食い算の話というよりは、ある数学的問題とその証明についての話なのである。しかも、数学的知識は殆どいらない。
 そして、数学にも興味にない人にだって、この本は面白いはずだ、と思う。
 ある一人の青年が、10代の何年かを削ってあることを成し遂げる。そこには数々のドラマがあり、そして一つの大発見がある。(特にコンピュータの発展した)世間的には全く何の意味もなく、ある種の自己満足に等しいその発見は、しかし当事者にとってはかけがえのないものだ。何事かに打ち込むこと、ひいては生きることの楽しさをこの本は読者に訴えかけている。僕は不覚にも少し感動すら覚えてしまった。
 ニコリで書いているときと何ら変わらない、よそ行きでない文章にも個人的には好感を持った。まあ、ギャグは滑っているけれど……。こんなニッチな(と推測されてしまいそうな)本を立ち上げた文藝春秋のスタッフに拍手を送りたい。もちろん作者にも。
 著者は、1÷9999999995という一つの割り算に神様を見た。僕らにも、神様を見つけるチャンスはある。