原作:セレナ・ヴァレンチノ/漫画:FSc『Nightmares & Fairy Tales』
シャープな筆致で描かれる現代の悪夢、あるいは暗黒のおとぎ話。時間・空間を超越しその全てを目撃するぬいぐるみアナベル。彼の忠告は誰の耳にも届かない。只一人を除いて。
- 作者: FSc,兼光ダニエル真
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2006/08
- メディア: 単行本
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「お話を語る技こそ強力な魔法なのです。」
いやーまさか商業出版でFScの名前を見ることになるとは。慌てて購入。1500円は痛いが損では無いと確信して。
内容は、統一された世界観で描かれる様々な出来事の詰め合わせ。帯には「FSc渾身の長編漫画」と書かれているが、やはりこれは連作短編集と見るのが妥当だろう。
ストーリーそのものには新鮮味は正直あまりない。現代パートは「世にも奇妙な物語」「トワイライト・ゾーン」的、と言ってしまって十分に事足りる。おとぎ話をダークに染めるという試みもこれが初めてというわけではもちろんない。
であるから、原作者には申し訳ないがこの漫画の魅力の大半はFScによる作画であると断言して良いだろう。
愛くるしいキャラクター。唐突に現れる残虐。プリティかつ不気味な異世界の住人。シャープな線と的確な省略によって描かれた、残酷さとかわいらしさが矛盾なく溶け込む独特のFScワールドは一見の価値あり。ウエダハジメが心酔するのは良く分かる。
完全なる悲劇だけでなく、(一応は)ハッピーエンドで終わる話もいくつか含まれていて癒された。このあたりのバランスは原作者の手柄だろう。さっきは貶して申し訳なかった。とはいえ、放り投げで消化不良な話もあったりするのだが。
それにしても、幸せを手に入れて微笑む彼女たちのかわいらしさと言ったら!
蛇足。個人的ベストは強いて挙げるなら「白雪姫」。独特の演出がもう素晴らしい。ラストに見せるスノーの笑顔がまぶしく。あとは「赤頭巾」のラスト真ん中のコマ。ここに見られるとびっきりのやさしさ、愛情。これが描けるということがFScの実力を雄弁に物語っていると思う。
是非今度はFScオリジナルの作品を出版して頂きたい所。