道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
学校を休んだS君の家にプリントを届けに行った僕。そこで、僕は見てしまったんだ。首をつったS君がゆらゆらと揺れているのを。
- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11
- メディア: 単行本
- クリック: 24回
- この商品を含むブログ (150件) を見る
そして一週間後。
死んだS君が僕の部屋へやってきた。
ああああああああああああああああ。
これ、これだよ俺が本格に求めているものは! と興奮してしまうほどに、個人的な意味でまさしく本格。秋山さんが「舞城王太郎と乾くるみを足して二で割ったような」と表していたけれど、僕は「麻耶雄嵩と佐藤友哉を足して二で割ったような」印象を受けた(どれほどの人に伝わるんだこの例え)。
得体の知れない不気味な雰囲気が覆うホラーテイストの前半では見事な気持ち悪さを堪能。後半になると比較的まっとうな本格ミステリーに落ち着くが、こちらも及第点以上の出来。
しかしもちろんこの作品のキモは怒涛のラストである。これまで紡ぎ上げられた「世界」の全容が明らかにされた瞬間、僕は嬉しい悲鳴をあげた。読者の信じていた「世界」は一瞬にして<異形のもの>へと変貌してしまうのだ。この仕掛けは、本格ミステリーとホラーの幸福な融合と言って良いのではないだろうか。
しかもただのサプライズでは終わらない。いつから世界は壊れてしまったのだろう。変貌した世界に佇む(言葉そのままの意味ではない)主人公ミチオの姿に、不覚にも僕は少し泣きそうになってしまった。この自らを突き動かす感情はなんだろう。感動では決してない。これは……そう、悲しみ。それしかない。ただただ、悲しい。
カタルシスの魅力が存分に詰まった傑作であった。麻耶雄嵩と佐藤友哉のどちらか片方、あるいは両方が好きな人は必読。
でもまあ、本ミス大賞は無理だろうな。