小箱とたん『スケッチブック (3)』

スケッチブック 3 (BLADE COMICS)

スケッチブック 3 (BLADE COMICS)

 ちょっと天然の入った梶原空、貧乏性でかわいいもの好きの鳥飼葉月、いつも眠そうな目をした空閑先輩、生物博士の栗原先輩……。少しおかしな美術部員たちの日常をゆったりと描くスローライフ四コマ漫画、第3巻。

 評価は再読性の高さやあんまり名が知られていないことなどを加味した結果です。


 おそらく世間的には萌え四コマ(この名称今ひとつピンと来ないのですが)のひとつとして消費されているのだと思いますが、内容的にはむしろ一般的な四コマ(たとえば最近紹介した重野なおき『僕の彼女はウエートレス』など)に近いです。
 まず、基本的にストーリーが存在しないことからして他の萌え四コマとは違います。普通の萌え四コマは一話(8P程度のまとまり)ごとにひとつのストーリーが作られていて、その中で一本一本の四コマがある、という形式なのですが、『スケッチブック』ではストーリーは無く、一本ごとに(他の一本とつながりの無い)ネタが描かれてゆきます。この点だけをとっても一般的な四コマ寄りなのは明白です。
 この形式では、ストーリーのおもしろさで読ませることはもちろん不可能なので、ひとつひとつのネタの強度のみでおもしろさを作っていかなければなりません。逆に言えば、この形式を選んでいるということはそれだけ一本一本に力を注いでいるということでもあります。安易にストーリーを作っていかない姿勢はとても好感が持てます。
 また、キャラの魅力に頼りきりでないのも良いです。これまた他の四コマ漫画と比べてしまいますが、それらが基本的に魅力的なキャラの掛け合いによって話を作ってゆくのに対し、『スケッチブック』ではキャラの魅力は備えつつも、人が現実生活においてふと感じる奇妙な出来事やちょっとした違和感などを上手く掬ってネタにしていて、しかもそれをキャラの魅力と有機的に絡めています。日常ネタだけでもなく、キャラだけでもなく、ちょうどいいバランスを保っていて、この点でもまた好感触です。
 そして特筆すべきはゆったりとしたテンポ。帯に「スロー四コマ」と書いているだけはあります。細かいところを見てゆくと、決してゆっくりなだけでないキレのある描写も結構あったりするのですが、全体を通して眺めたときに、確かに海の中を漂うようなゆったりとした感覚を覚えるのです。読んでいるうちに自分の感情までゆったりとしてくるのだから驚きです。男か女か判別のつかない中性的なキャラが多いのもスローな雰囲気作りに一役買っています。
 というわけで、一風変わった萌え四コマを読みたい人や、スピード感あふれる日常に疲れてしまった人などにおすすめの一作です。


 ちなみに、どうでもいいことですが個人的に一番気に入っているキャラは、エセ日本語を操る外国人ケイト。ここでもまた(少なくとも二次元においては)眉毛の太いキャラが好みであるという僕の好みが露見する結果になってしまったようで。妙な高さのテンションや始終(^^)な顔もとてもよろしい。