みずしな孝之『けものとチャット (1)』

けものとチャット (1)

けものとチャット (1)

 一見ごく普通の女子高生である毛野本茶々。実は彼女は猫と会話ができてしまうのだ。うらやましい!
 「茶々、なんか太ったねえ」「足あんなに太かったっけ?」「カオまるーい!」
 うらやましくない!

 これはおもしろいです。著者の代表作になるのはおそらく間違いないでしょう。
 猫としゃべれるという設定自体には新鮮味はありませんが、その能力がほとんど役に立たないとどころかむしろ邪魔くさいという描かれ方は結構新しいのでは。
 猫たちが右も左も大ボケばっかり。彼らのどこか間違った思考回路がとにかく笑えます。一例をあげると、


 「シーズンかいまく!」「目がはなせない!」「茶々さんは野球どこがすき?」
「野球? あんまりみないなあ。あんたたちは?」
「オレ球がすき!」「オレは旗だなー!」「オレは紙ふぶき! 紙ふぶき!!」


 始終こんな感じ。猫の考えってたしかにこんな感じかもしれないと思わせてくれます。年中こんな奴らに付きまとわれたらうっとおしいだろうけれど、外からちょっとだけ眺める分には楽しい、というバランスの絶妙さも見事。やはり年季のなせる業でしょうか。
 話を理論的に組み立てるみずしな孝之の作風はともすると空回りしがちなのですが、本作の「微妙に人間とズレた猫の思考」という題材とは相性抜群。安心して楽しめる作品です。このまま末永く続いてくれると良いですね。