谷川流『ボクのセカイをまもるヒト』

 その日、これといった特徴もない15才の少年、朝凪巽がこうむった事故的な出来事は、誰にも予測できなどしなかったと思われる事故以前のものだった。
 唐突に「お兄ちゃーん!」と叫びながらタックルしてくる見知らぬ幼女。勝手に家に上がりこみ「遅かったではないか」などと言う、こちらも見知らぬ美少女。二人は口々にこういうのだ。「お兄ちゃんを守りに来たんですよー」「お前を守りに来たのだ」


 谷川流の悪いところ濃縮120%、みたいな。
 いや、わかっていたんですよ。谷川流はすさまじい傑作を物すこともあれば、驚くべき駄作もまた物すことがあるんだって、知ってはいたんです。だけど、『学校を出よう!』の続編を放棄してまでの新シリーズですよ。期待したって、いいじゃないですか、ねえ。(誰に向かって言ってるんだ)


 新シリーズの1作目としては、ちょっとこれはどうなのという感じ。とにかく好きになれる登場人物が一人たりとも存在しないのが致命的です。登場した瞬間から傍若無人に振舞う美少女・綾羽。どんな性格なのかまるでわからない幼女・猫子。何事にも動じず、マイペースを貫く姉・津波。その他の人物も(主人公を除いて)皆自分のことしか頭になく、またそのように行動するので、そんな奴らのドタバタを延々読まされているこちらはイライラしっぱなし。じゃあ主人公はというと、自分に多大な迷惑をかけ続ける有象無象に怒りをぶちまけるでもなく、それどころか相手の身を案じたり愛着を覚えたりする始末。どうしようもありません。
 話の展開もしょっぱなから読者おいてけぼりで、まあこれは読者と主人公を同じ立ち位置に立たせるためにわざとやっていることなんでしょうが、それにしてももうちょっと上手くやってくれよと。強引なら強引で、ちゃんと読ませるものになっていればいいのですが、これではただ強引なだけです。理解も出来ず、ただ展開される映像をぽかんと眺めるのみ。どうしようもありません。
 こうなってくるともう些細なところ全てが気に入らなくなってきます。あの『絶望系』を書いた谷川が何「××××」なんてかわいこぶってんだ。「オナニー」って書けよ! なんて難癖をつけたくなってしまうから、どうしようもありません。
 思うに、谷川流は話をおもしろく展開させたり、キャラを(短い間に)立てたりするのが下手なんですね。その代わり描かれる世界の構造を語らせたり、ばら撒かれた伏線を最後に一気に回収する、その手腕については本当に見事なもので、それが上手くはまった作品は傑作になるのですが、そうでないとつまらないどころか怒りすら感じてしまう作品になってしまうと。
 今回のシリーズでは、その世界語りや伏線回収の部分が次巻以降に持ち越されてしまっているので、1巻単体ではカタルシスも得られません。非常にもったいないなあと思います。はたして本書で谷川流初体験の人がついてきてくれるのか。
 僕はついていきますけどね。何回裏切られたって、いつまでも谷川流を信じますよ。ファンだから。