仙石寛子「背伸びして情熱」

背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

 いつも電車で漫画を読むときは音楽を聴きながら読むのだけれど、この本を読むときは音楽を切った。そうしないといけない漫画だって知っていたから。
 作者の同人誌も持ってる。でもここまですごい作家になるとは思わなかった。とてつもないものを持ってやってきた新人。4コマ漫画の起承転結を完全に無視して、ただ枠が四角いだけのストーリー漫画になっている。だから4コマじゃないって言う人もいる。でもこれは、この形式だからこその雰囲気がきちんとあるんだから、やっぱり4コマだ。
 たぶんルーツは少女漫画だと思う。でもそれは、キラキラした恋愛とかを描くような少女漫画では全然無くて、もっと現実に足のついたシビアな恋愛だ。だからほほえましく感じながらもどこか痛い。悲しい。切ない。「赤くない糸」の後半の展開なんて、本当に息が止まる。一言一言が、ずどんと重い。震えながら俺は読む。
 俺は基本的に褒める作品は本当にべた褒めして傑作だの何だの言うから、こういう作品を褒めるとき狼少年みたいな心境に陥る。今まで嘘ついて褒めたことはない。でも、この漫画はそれらとは違う。全然違ってて、自分の心の中の大切なポジションにすっと入り込んだような漫画なんだ。それをきちんと伝えたいのに伝えられない自分がもどかしい。
 これは、本当に、俺にとっては大切で大切ででたまらない漫画です。この人の描く感情が雰囲気が俺はどうしようもなく好きで仕方なくて、泣きそうになってしまいながらページをめくるんです。先生が可愛くて仕方ないんです。この姉弟が愛おしくて呻くんです。
 お願いします、買ってください。読んでください。どうか頼むから一人でも多くの人がこの本を手にとって、彼ら彼女らの感情に触れて欲しいと俺は願ってこの文章を書いています。