よしながふみ「きのう何食べた? (2)」

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

きのう何食べた?(2) (モーニング KC)

 本格的に漫画を読みだしたのはたぶん四年ほど前からで、それから知った漫画家も数え切れないほどいる。その中で一人選べと言われたら「よしながふみ」と答える、なんて話はもう何回も繰り返しているのだけれど。
 新作です。
 並行連載中の「大奥」がシリアスで気の抜けない話なので、その反動かこっちは大変気の抜けた出来。と言ってもけなしているわけではもちろんなく、その気の抜け具合が大変心地良い。
 料理が趣味の弁護士と、それをおいしそうに食べる美容師。いい歳した男二人の同棲生活。特に大きな物語もないこの日常には、しかしまぎれもない「小確幸(小さいけど確かな幸せ(c)村上春樹)」が存在している。
 よしながふみの描写力はかなり異常で、例えば148ページからの展開のリアリティには圧倒される。そういう細部の描き方がものすごくしっかりしているから、ぶれない。毎話必ず挿入されるしつこいくらいに精密で長い料理シーンを必要と取るか不必要と取るかで評価は変わってきそうだが、とにかく出される料理はおいしそうだ。思わず作ってみたくなる。
 昨日の夜、僕はちょっと眠れなくて、そろそろ世の中からフェードアウトしようかなんて考えていたのだけれど(まあ一ヶ月に一度くらいは考える事である)、この大人二人の生活を眺めて救われた気分になる。生きること、そんなに悪くないんじゃないかって思える。それこそがよしながふみの漫画の持つ力である。