こんな夜更けに雪が降る
うとうとしていると警報がけたたましく鳴った。はっと窓の外を見ると、暗闇の中に光る大粒の雪。
なるほど。
つまり、これが今日の仕事なわけか。
視線を時計へ。1時。本当はゆっくり眠っていたい時間だが、仕方が無い。夜勤とは斯様に辛いものなのだ。
重い腰をあげ、めいっぱい服を着込み、リュックを背負い、傘を掴んで外へ。流石に寒い。一瞬足が止まるが、しかし行かねばならない。それが私の仕事だ。
雪の積もり始めた道をひたひたと歩く。一本道だから真暗でも迷う事はない。街灯も目印になる。
1時間ほど歩いて私は目的地へたどり着く。
岸壁。
180度に海しか見えないそこへ立つと、リュックからハンドベルを取り出して、決められたタイミングで5回鳴らす。
海が割れる。そして鯨が現れる。
「どうしましたー?」
「いやね、鯨さん。また間違っちゃってますよ。ほら、雪が」
「ありゃ、本当だ。すぐに書き換えます。いつもすみませんねえ」
「いえいえ、これが私の仕事ですから」
部屋に戻ってお茶を飲む。
これで、雪は綺麗さっぱり消えてなくなるだろう。
そもそも、この世界に雪なんてものは存在してはいけないのだ。