TONO『カルバニア物語 (10)』

カルバニア物語10 (Charaコミックス)

カルバニア物語10 (Charaコミックス)

 唐突に訪れたエキューの発情期。とりあえず手始めにライアンとねんごろになろうと決心するエキューだったが……。時を同じくして父・タンタロット公爵の周りでは大変なことが起こっていた。170ページを費やした長編「エキューの春」他一編を収録した、王宮ストーリー激動の第10巻。

 ↓では5段階と書いたのだけれど、実は大傑作を超え、神の領域にまで達した作品には★×6の評価が与えられるのでした。今決めました。


 本を読んで比喩でなく体が震えるなんて体験はいつ以来だろう。


 ついにエキューが! という、話全体から見ても重要な位置を占めるのは間違いないだろう今回の話ですが、だからでしょうか、話の隅々、何気ない会話のひとつに至るまで作者の魂が込められていることがはっきりとわかります。特に自由奔放な女性エキューの微妙な心の揺れ動きに関する描写はすばらしい。これを読んでエキューをいとおしいと思わない人間が果たして存在するのでしょうか。TONOはエキューという人間を作り出したという、ただそれだけで漫画史に名を刻まれるべきだとすら思います。本気です。


 前半はセックスについてそれなりにあけすけに描いた話になっていますが、決してどぎつくはなく、むしろさらりと読ませます。ちゃんと話のファクターのひとつとして相応の扱いをしていて驚きました。少なくとも僕はセックスをここまでうまく扱った漫画を読んだことはありません。
 後半に入ると話はタンタロット公爵の周りへとシフトするのですが、こちらのほうが出色の出来。今までエキューと敵対していた人たちの真意が判明する瞬間は胸にグッと来ます。ここへきて、この大きな物語は、たしかにひとつの頂点へと登りつめたのです。『カルバニア物語』内最高傑作のエピソードだと断言します。


 本作品が真に優れているのは、これがコメディであるというところにあると思います。人間に関する(重いものも含んだ)様々なテーマについて扱い、魂を削りつつも、決してシリアス一辺倒にならず、最終的にはコメディであることをやめない。そのことが本作品をただの傑作の域を超えたすばらしい作品にしているのでしょう。


 しかし何でこんなにすごい作品が未だにマイナーなのでしょうか。おそらく掲載雑誌(「Chara」という隔月発売でBL中心の少女漫画誌)のせいだとは思うのですが、それにしても不当な扱いです。全人類に広く読まれるべき作品ですので、みなさん読んでください。頼みますから読んでください。お願いですから。