きづきあきら『モン・スール』

モン・スール (Seed!comics)

モン・スール (Seed!comics)

 大学に合格して間もなく、父親は「すまん」の紙切れ一枚でいなくなった。母親はとっくの昔に離婚している。俺と小学生の妹二人で、これからどうやって生きていけばいいんだろう。やっぱり大学はあきらめなきゃいけないのか?
 でも神田はそんな俺に「ばーか」と言った。今すぐ奨学金を調べて、夜や休日はバイトして、それでも金が足りないなら俺が貸してやる、とその親友は笑った。
 信じられる友達がいて、守りたい家族がいて、出来事的には不幸なことはあっても、自分は幸せでいられると思っていた。
 思っていたんだ。

 そういえば借りていたのでした。以前書いたようにトラウマになっている本作ですが、勇気を出して読んでみました。が、意外と全然平気でした。件の1話も全くへこまず。すでにオチを知っているからなのか、3年弱の間に僕の精神がタフになったのか。まあ間違いなく前者でしょうが。
 しっかしすごいもの書きますねきづきあきらは。ちょっとこれは、傑作です。
 平和だった日常はあっさり崩れ去る。いや、平和そうに見えていただけで、本当はとっくの昔に崩れ去っていたんだ。信じていた人たちは皆自分を騙している。双方向だったはずの信用は実は一方向でしかない。現実を少し剥がしてみれば、今まで見ていた世界が全部嘘だったと知る。
 主人公が、基本的にはいい人であるにもかかわらず、感情移入のできない、いけ好かない奴で、でもそれは、おそらく読者である自分の中に絶対に存在する、だけれども存在することを認めたくはない、そんな一面を具現化したキャラだからでしょう。こんなにもある種のリアルを秘めたキャラは、そんなにはいないのではないかと思います。
 ひたすら暗めの話が続くのに何故だか明るい感じがするのは、「それでも希望はあるのだ」という作者のスタンスから来るのでしょう。読み終わるとなんだか勇気がわいてきます。
 読んでない人は絶版になる前に急いで本屋に駆け込みましょう。そうしましょう。